フェルヴァールの赫槍 後編④ 氷嵐

妄想狩猟小説
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巨大な翼。

鋭い牙。

蒼白の鱗。

雪風が唸る。

「ベリオロスか。……大きいな」

空気を裂く咆哮とともに、雪原へ降り立つ。

衝撃で雪が吹き上がる。

騎士団の隊列がわずかに揺れた。

「第二のモンスターだ!」

「飛竜種!!」

カイルの目が細くなる。

(想定外……)

ベリオロスは一瞬、戦場を見渡した。

穴の底のラージャン。

その周囲を囲む騎士団。

そして、翼を大きく振る。

その瞬間。

雪原に、竜巻が生まれた。

一つ。

二つ。

三つ。

次々と、氷の竜巻が立ち上がる。

「竜巻だ!」

「距離を取れ!」

だが遅い。

暴風が視界を奪う。

雪と氷が渦を巻き、空間が白く閉ざされていく。

深雪は歯を食いしばる。

(視界が……)

ライトボウガンの照準が定まらない。

竜巻の乱流が、弾道を狂わせていた。

「弾が通らない……!」

そのとき、轟音と共に地面が破裂した。

「穴が!」

落とし穴の縁が崩れる。

次の瞬間、ラージャンが飛び出した。

黄金の巨体が、雪原へ躍り出る。

「脱出した!!」

咆哮。

雷光。

怒りの雷が全身を包む。

二体の怪物が、同じ戦場に立っていた。

エルンが叫ぶ。

「隊列維持!!」

しかし、ベリオロスは止まらない。

竜巻をばら撒きながら、雪原を横断する。

「いったい、いくつ出ているんだ!?」

視界は雪煙のためほぼゼロになっていた。

隊列は乱れる。

騎士団は二体の巨獣の間に挟まれた。

エルンの思考が高速で回る。

(ラージャンは罠で弱っている)

(だが……)

視線がベリオロスへ向く。

(こちらは危険すぎる)

決断は一瞬だった。

「作戦変更!」

声が響く。

「新手の飛竜を優先する!!」

騎士たちが驚く。

「深雪!」

エルンが叫ぶ。

「ラージャンを引き付けろ!」

深雪は即答した。

「了解」

しらゆきが尻尾を立てる。

「任せてくださいニャ!」

雪風が静かに言う。

「うむ」

深雪が走り出す。

銃声。

弾丸がラージャンの肩で弾けた。

雷の巨獣が振り向く。

「こっちよ!」

ラージャンの視線が、深雪へ向いた。

次の瞬間。

ベリオロスが翼を広げた。

カイルは槍を構える。

「前進!」

騎士団が突撃する。

穿雷陣—楔のような攻撃的陣形—の形で、氷の飛竜へ迫る。

しかし。

ベリオロスの動きが変わった。

竜巻の一つの近くに、もう一つの竜巻を放つ。

カイルの眉が動いた。

(動きが……違う。逆回転の渦?)

空気が歪む。

そして。

何も起きなかった。

――ように見えた。

次の瞬間。

騎士が一人、膝をついた。

「ぐっ……!」

もう一人。

「息が……」

三人。

四人。

次々に騎士が崩れる。

叫び声はない。

ただ。

呼吸ができない。

肺が潰れる。

耳鳴り。

平衡感覚の崩壊。

騎士たちが、雪の上に倒れていく。

カイルの目が開く。

(…空気…か)

瞬時に理解した。

「下がれ!!」

叫ぶ。

カイルも平衡感覚を失い膝をつく。

後ろを見ると、騎士団の大半が、雪の上に倒れていた。

うめき声。

動けない者。

呼吸を必死に整える者。

エルンが息を呑む。

「……なんだ、今の」

雪原には。

まだ、二体の怪物が立っていた。

ラージャン。

そして。

氷の暴風を纏うベリオロス。

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