ベリオロスが翼を広げた。
雪原の空気が震える。
氷嵐が渦を巻いた。
雪面から四本の竜巻が立ち上がる。
巨大な白い柱。
視界が瞬時に奪われた。
深雪がボウガンを持ち上げる。
照準を固定する。
しらゆきが小さく言った。
「来るニャ」
ベリオロスが咆哮した。
竜巻が膨れ上がる。
氷嵐が視界を完全に覆う。
その瞬間。
エルンは極度の集中状態に入っていた。
周囲の音は聞こえない。
静寂。
巨大な竜巻の向こう。
命の光が揺れている。
(あの時と同じだ)
ナズチの霧の中。
命を射抜くための、たった一つの目印。
氷嵐の中でも、それだけは隠れない。
右二つ。
左の上。
合わせて三箇所。
竜巻の回転を崩す点。
残り一つは――深雪。
エルンは疑わなかった。
弓が鳴る。
四本の矢が放たれた。
一本。
二本。
三本。
右側の竜巻。
上部と下部。
そして左の竜巻の上部。
三つの矢が同時に貫く。
回転が乱れる。
竜巻が崩れる。
その〇・二秒後。
深雪の弾丸が左の竜巻下部を撃ち抜いた。
回転が止まる。
四本の竜巻が同時に崩壊した。
氷嵐の中心が露出する。
ベリオロス。
そして。
四本目の矢が翔蟲の青い光を描きながら一直線に飛ぶ。
ベリオロスの胸に触れる。
光が張り付いた。
命の位置。
エルンの矢は、そこに印を残していた。
ベリオロスの目が細くなる。
だがその視線が捉えたのは、胸の矢ではない。
その正面に立つ男。
黄金の鎧。
燃えるような赤い髪。
金色の瞳。
野生の本能が理解する。
危険。
最大の脅威。
排除すべき対象。
翼が振り下ろされる。
二つの巨大竜巻が同時に発生した。
右。
右回転。
左。
左回転。
二つの巨大な氷嵐がカイルを挟む。
中央の空間が歪む。
真空。
死の領域。
カイルはすでに構えていた。
盾を地面に突き刺す。
ランスを背中から外す。
槍投げの姿勢。
六式。
――否。
カイルの右腕が光に包まれていた。
翔蟲の糸。
鉄蟲糸技。
光が棒状に伸びる。
ランスを支える腕が延長されたような形状。
まるで。
古代の投擲具。
――アトラトル。
槍を投げるための補助具。
人の腕の延長。
投擲距離を飛躍的に伸ばす装置。
エルンが小さく息を吐いた。
理解した。
カイルの右腕が引かれる。
翔蟲の糸が張る。
そして。
踏み込む。
六式。
全身同時駆動。
爆発的な加速。
鉄蟲糸技がさらに速度を乗せる。
投げる。
ランスが発射された。
巨大な鋼鉄の槍。
重量の塊。
超高速のミサイルのように飛ぶ。
翔蟲の糸が引く。
軌道が曲がる。
ベリオロスの胸。
エルンの矢が残した光。
そこへ一直線。
その瞬間。
ベリオロスも同時に力を解放していた。
二つの巨大竜巻が中央へ収束する。
空間が歪む。
圧縮される空気。
凍りつく氷嵐。
時間が止まったような一瞬。
次の瞬間。
ランスが竜巻の中心に突入した。
貫通。
回転が崩れる。
竜巻同士が衝突する。
圧縮された真空空間。
直後。
崩壊。
周囲の空気が一気に流入する。
巨大爆発。
雪原が揺れる。
氷嵐が吹き飛ぶ。
視界が白に埋まった。
轟音。
衝撃。
空気が震える。
しばらく。
何も見えなかった。
やがて。
風が止む。
竜巻が消える。
雪煙が流れる。
静寂。
湖の中央。
突き出した岩。
そこに。
ベリオロスが貫かれていた。
胸を。
巨大なランスが突き抜けている。
ベリオロスの爪がわずかに動く。
翼が震える。
まだ。
生きている。
だが。
力が抜けていく。
最後の息が白く漏れた。
動きが止まる。
氷嵐は完全に消えていた。
雪原に静寂が戻る。
雪風が低く言った。
「……決着だ」
カイルが肩を落とす。
「どうにか……終わったみたいだな」

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