フェルヴァールの赫槍 後編⑦ 決着

妄想狩猟小説
この記事は約3分で読めます。

ベリオロスが翼を広げた。

雪原の空気が震える。

氷嵐が渦を巻いた。

雪面から四本の竜巻が立ち上がる。

巨大な白い柱。

視界が瞬時に奪われた。

深雪がボウガンを持ち上げる。

照準を固定する。

しらゆきが小さく言った。

「来るニャ」

ベリオロスが咆哮した。

竜巻が膨れ上がる。

氷嵐が視界を完全に覆う。

その瞬間。

エルンは極度の集中状態に入っていた。

周囲の音は聞こえない。

静寂。

巨大な竜巻の向こう。

命の光が揺れている。

(あの時と同じだ)

ナズチの霧の中。

命を射抜くための、たった一つの目印。

氷嵐の中でも、それだけは隠れない。

右二つ。

左の上。

合わせて三箇所。

竜巻の回転を崩す点。

残り一つは――深雪。

エルンは疑わなかった。

弓が鳴る。

四本の矢が放たれた。

一本。

二本。

三本。

右側の竜巻。

上部と下部。

そして左の竜巻の上部。

三つの矢が同時に貫く。

回転が乱れる。

竜巻が崩れる。

その〇・二秒後。

深雪の弾丸が左の竜巻下部を撃ち抜いた。

回転が止まる。

四本の竜巻が同時に崩壊した。

氷嵐の中心が露出する。

ベリオロス。

そして。

四本目の矢が翔蟲の青い光を描きながら一直線に飛ぶ。

ベリオロスの胸に触れる。

光が張り付いた。

命の位置。

エルンの矢は、そこに印を残していた。

ベリオロスの目が細くなる。

だがその視線が捉えたのは、胸の矢ではない。

その正面に立つ男。

黄金の鎧。

燃えるような赤い髪。

金色の瞳。

野生の本能が理解する。

危険。

最大の脅威。

排除すべき対象。

翼が振り下ろされる。

二つの巨大竜巻が同時に発生した。

右。

右回転。

左。

左回転。

二つの巨大な氷嵐がカイルを挟む。

中央の空間が歪む。

真空。

死の領域。

カイルはすでに構えていた。

盾を地面に突き刺す。

ランスを背中から外す。

槍投げの姿勢。

六式。

――否。

カイルの右腕が光に包まれていた。

翔蟲の糸。

鉄蟲糸技。

光が棒状に伸びる。

ランスを支える腕が延長されたような形状。

まるで。

古代の投擲具。

――アトラトル。

槍を投げるための補助具。

人の腕の延長。

投擲距離を飛躍的に伸ばす装置。

エルンが小さく息を吐いた。

理解した。

カイルの右腕が引かれる。

翔蟲の糸が張る。

そして。

踏み込む。

六式。

全身同時駆動。

爆発的な加速。

鉄蟲糸技がさらに速度を乗せる。

投げる。

ランスが発射された。

巨大な鋼鉄の槍。

重量の塊。

超高速のミサイルのように飛ぶ。

翔蟲の糸が引く。

軌道が曲がる。

ベリオロスの胸。

エルンの矢が残した光。

そこへ一直線。

その瞬間。

ベリオロスも同時に力を解放していた。

二つの巨大竜巻が中央へ収束する。

空間が歪む。

圧縮される空気。

凍りつく氷嵐。

時間が止まったような一瞬。

次の瞬間。

ランスが竜巻の中心に突入した。

貫通。

回転が崩れる。

竜巻同士が衝突する。

圧縮された真空空間。

直後。

崩壊。

周囲の空気が一気に流入する。

巨大爆発。

雪原が揺れる。

氷嵐が吹き飛ぶ。

視界が白に埋まった。

轟音。

衝撃。

空気が震える。

しばらく。

何も見えなかった。

やがて。

風が止む。

竜巻が消える。

雪煙が流れる。

静寂。

湖の中央。

突き出した岩。

そこに。

ベリオロスが貫かれていた。

胸を。

巨大なランスが突き抜けている。

ベリオロスの爪がわずかに動く。

翼が震える。

まだ。

生きている。

だが。

力が抜けていく。

最後の息が白く漏れた。

動きが止まる。

氷嵐は完全に消えていた。

雪原に静寂が戻る。

雪風が低く言った。

「……決着だ」

カイルが肩を落とす。

「どうにか……終わったみたいだな」

コメント

タイトルとURLをコピーしました