巨大な翼。
鋭い牙。
蒼白の鱗。
雪風が唸る。
「ベリオロスか。……大きいな」
空気を裂く咆哮とともに、雪原へ降り立つ。
衝撃で雪が吹き上がる。
騎士団の隊列がわずかに揺れた。
「第二のモンスターだ!」
「飛竜種!!」
カイルの目が細くなる。
(想定外……)
ベリオロスは一瞬、戦場を見渡した。
穴の底のラージャン。
その周囲を囲む騎士団。
そして、翼を大きく振る。
その瞬間。
雪原に、竜巻が生まれた。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と、氷の竜巻が立ち上がる。
「竜巻だ!」
「距離を取れ!」
だが遅い。
暴風が視界を奪う。
雪と氷が渦を巻き、空間が白く閉ざされていく。
深雪は歯を食いしばる。
(視界が……)
ライトボウガンの照準が定まらない。
竜巻の乱流が、弾道を狂わせていた。
「弾が通らない……!」
そのとき、轟音と共に地面が破裂した。
「穴が!」
落とし穴の縁が崩れる。
次の瞬間、ラージャンが飛び出した。
黄金の巨体が、雪原へ躍り出る。
「脱出した!!」
咆哮。
雷光。
怒りの雷が全身を包む。
二体の怪物が、同じ戦場に立っていた。
エルンが叫ぶ。
「隊列維持!!」
しかし、ベリオロスは止まらない。
竜巻をばら撒きながら、雪原を横断する。
「いったい、いくつ出ているんだ!?」
視界は雪煙のためほぼゼロになっていた。
隊列は乱れる。
騎士団は二体の巨獣の間に挟まれた。
エルンの思考が高速で回る。
(ラージャンは罠で弱っている)
(だが……)
視線がベリオロスへ向く。
(こちらは危険すぎる)
決断は一瞬だった。
「作戦変更!」
声が響く。
「新手の飛竜を優先する!!」
騎士たちが驚く。
「深雪!」
エルンが叫ぶ。
「ラージャンを引き付けろ!」
深雪は即答した。
「了解」
しらゆきが尻尾を立てる。
「任せてくださいニャ!」
雪風が静かに言う。
「うむ」
深雪が走り出す。
銃声。
弾丸がラージャンの肩で弾けた。
雷の巨獣が振り向く。
「こっちよ!」
ラージャンの視線が、深雪へ向いた。
次の瞬間。
ベリオロスが翼を広げた。
カイルは槍を構える。
「前進!」
騎士団が突撃する。
穿雷陣—楔のような攻撃的陣形—の形で、氷の飛竜へ迫る。
しかし。
ベリオロスの動きが変わった。
竜巻の一つの近くに、もう一つの竜巻を放つ。
カイルの眉が動いた。
(動きが……違う。逆回転の渦?)
空気が歪む。
そして。
何も起きなかった。
――ように見えた。
次の瞬間。
騎士が一人、膝をついた。
「ぐっ……!」
もう一人。
「息が……」
三人。
四人。
次々に騎士が崩れる。
叫び声はない。
ただ。
呼吸ができない。
肺が潰れる。
耳鳴り。
平衡感覚の崩壊。
騎士たちが、雪の上に倒れていく。
カイルの目が開く。
(…空気…か)
瞬時に理解した。
「下がれ!!」
叫ぶ。
カイルも平衡感覚を失い膝をつく。
後ろを見ると、騎士団の大半が、雪の上に倒れていた。
うめき声。
動けない者。
呼吸を必死に整える者。
エルンが息を呑む。
「……なんだ、今の」
雪原には。
まだ、二体の怪物が立っていた。
ラージャン。
そして。
氷の暴風を纏うベリオロス。

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