フェルヴァールの赫槍 後編③ 雪原の罠

妄想狩猟小説
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雪原に、咆哮が響いた。

ラージャン。

風穴谷から飛び出した黄金の巨獣は、一瞬で距離を詰めてくる。

深雪は振り返りながら走る。

足は止めない。

銃口だけが後ろを向く。

発砲。

乾いた銃声。

弾丸がラージャンの肩をかすめた。

怒りの唸り。

ラージャンの脚が地面を叩く。

雪が爆ぜた。

「速い……!」

しらゆきが叫ぶ。

「深雪!」

深雪は冷静だった。

「予定通り!」

走る。

進路は雪原中央。

その途中。

騎士団の前衛が待っていた。

「来るぞ!」

ランス隊が盾を構える。

鋼の壁。

ラージャンが跳んだ。

巨大な影が空を覆う。

「ブレス来る!」

騎士の声。

次の瞬間。

雷光。

ラージャンの口から放たれた閃光が一直線に騎士団へ向かう。

「盾構え!」

衝撃。

轟音。

雷が盾に叩きつけられる。

だが。

騎士たちは動かなかった。

雪煙が晴れる。

ランス隊がまだ立っている。

「防げた!」

その時。

一人の騎士が言った。

「……待て」

盾を見た。

白い霜。

凍結。

「盾が……凍ってる?」

エルンの声が通信に入る。

「氷?」

カイルが低く言う。

「雷だけじゃない」

「氷も混ざってる」

しらゆきが叫ぶ。

「反則ニャ!」

ラージャンが突進する。

前衛が踏ん張る。

盾と巨獣が衝突。

鈍い衝撃音。

騎士たちは吹き飛ばされない。

陣形が維持される。

カイルが言う。

「いいぞ!」

「そのまま押さえろ!」

深雪はすでに動いていた。

ラージャンの側面を走る。

銃撃。

岩へ。

雪へ。

視界の端へ。

ラージャンの注意を引き続ける。

巨獣の視線が深雪へ向く。

「こっちよ!」

深雪が叫ぶ。

ラージャンが跳んだ。

その瞬間。

騎士団が左右へ開く。

中央が空いた。

その先。

落とし穴。

エルンが言う。

「距離十」

「そのまま誘導」

深雪は走る。

足元の雪を蹴る。

背後から

ラージャンの気配。

巨大な影。

しらゆきが叫ぶ。

「今ニャ!」

深雪が跳ぶ。

落とし穴を飛び越える。

次の瞬間。

地面が崩れた。

轟音。

雪煙。

巨大な影が沈む。

ラージャンが落ちた。

エルン

「よし!」

カイルが槍を持ち上げる。

「今だ!」

騎士団が動いた。

大剣。

太刀。

ランス。

鋼の群れが一斉に落とし穴へ殺到する。

カイル

「一気に決める!」

落とし穴の縁に、土煙が立ち上っていた。

巨体がもがくたび、地面が震える。

穴の底で暴れるラージャンの咆哮が、風穴谷に反響していた。

「拘束成功だ!」

騎士の一人が叫ぶ。

「包囲を狭めろ! 槍列、前へ!」

重装の騎士たちが雪原を踏みしめ、整然と進む。
盾と槍が整然と並び、穴を囲む陣形が形成されていく。

先頭に立つのはカイルだった。

巨大なランスを肩に担ぎ、静かに穴を覗き込む。

「……暴れるなよ」

低く呟いた。

「すぐ終わる」

穴の底で、ラージャンが咆えた。

黄金の体毛が逆立ち、雷が弾ける。

しかし。

逃げ場はない。

騎士団の槍列が迫りつつあった。

――作戦は成功。

誰もがそう思った、その時だった。

岩尾根から、通信が入る。

「……こちら監視!」

一瞬の沈黙。

その声には、明らかな戸惑いが混じっていた。

「何かが接近――」

その言葉が終わるより早く。

深雪の背筋に、鋭い寒気が走った。

同時に。

エルンも顔を上げる。

「……飛竜」

「氷系」

二人の声が、ほぼ同時に重なった。

「危ない!」
「避けろ!!」

次の瞬間。

――轟音。

白い嵐が、空から降ってきた。

そして、新たな戦いが始まった。

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