第一章 金冠の咆哮
「金冠だぞ。これで文句は言わせない」
若いハンターの声が荒野に響く。
崖縁の乾いた風が砂を巻き上げる。
その下から、地鳴りのような咆哮が轟いた。
空気が震える。
ティガレックス・・・金冠級の大きさだ
通常個体より一回り大きい、では足りない。
胴体の厚み、前脚の太さ、尾の重量。
その存在が、地形に干渉している。
踏み込む。
岩盤が割れる。
若いハンターの喉が鳴る。
一歩、退いた。
その前へ、巨大な――2mはあるだろうか――男が出る。
無骨な大剣。
幾度も研ぎ直された刃。
防具には古傷が刻まれている。
実戦慣れした雇われの護衛――傭兵だ。
「坊ちゃんは後ろに立ってりゃいい」
傭兵の低く、重い声
重心もまた、低い。
ティガレックスが跳ぶ。
着地と同時に前脚が振り抜かれる。
衝突。
傭兵が大剣で受け止める。
骨に響く衝撃。
刃が沈み、足元の岩が砕ける。
押される。
二撃目。
尾が横薙ぎに来る。
傭兵が弾き飛ばされ、地面を滑る。
ティガレックスが追撃の体勢。
若いハンターは動けない。
その瞬間。
銃声。
右眼の縁に火花。
巨体がわずかに頭を振る。
二発目。
前脚付け根。
踏み込み角度が狂う。
岩棚の上。
女ハンターがすでに位置を変えている。
ワイヤー――翔蟲――東方で使われるという奇妙な道具――が岩に刺さり、
彼女の身体が静かに滑る。
着地音がない。
ティガレックスが視線を上げる。
怒りの矛先が変わる。
咆哮。
音圧が衝撃波となり、砂が刃のように飛ぶ。
若いハンターが直撃位置にいる。
死。
その一歩手前。
傭兵が体当たりで弾き飛ばす。
咆哮が傭兵を直撃する。
大柄な体躯が岩に叩きつけられる。
血が砂に滲む。
荒野に緊張が満ちる。
岩棚の上。
女ハンター――確か、協力者として雇われていた――
は銃を構え直す。
撃つ前に、戦場を測っている。
その背後で、小さな影が砂を掘っていた。
爆弾と罠を抱え、真剣な顔で設置作業を続けている。
「金冠だろうが関係ないニャ……ボクの罠で動きを止めるニャ」
第二章 罠
戦場に小さな影が飛び出した。
アイルー――しらゆきといったか。「アイルー界の神童」なんて名乗っていた
両手に爆弾。
連続で投擲。
一つ、二つ、三つ。
爆炎が巨体の足元で連鎖する。
閃光。
視界が白く染まる。
ティガレックスがわずかに怯む。
「今だ! 仕掛け完成ニャ!」
地面が抜ける。
落とし穴。
前脚が沈む。
巨体が傾く。
拘束成功。
若いハンターの目が輝く。
「うぉー!今度こそ――!」
全力で踏み込む。
太刀を振りかぶる。
斬撃が首元へ走る。
だが。
通常よりも巨体…金冠クラス。
落とし穴の縁が砕ける。
深さが足りない。
巨体が持ち上がる。
「えっ……あれ!?」
若いハンターの声が凍る。
ティガレックスの尾が唸る。
回転。
地面ごと薙ぐ。
若いハンターが吹き飛ぶ。
「ニャッ!」
しらゆきが弾き飛ばされる。
砂に転がる。
傭兵が二人の前へ滑り込む。
大剣で受ける。
衝撃。
刃が軋む。
足元が割れる。
押される。砂煙の中で、ティガレックスが唸る。
しらゆきが叫ぶ。
「奥の手、いくニャ!」
爆炎。
地面から杭が突き出す。
一瞬、動きが止まる。
――勝機
傭兵が踏み込む。
大剣が唸る。
尾へ。
一撃。
二撃。
三撃目。
裂ける。
尻尾が宙を舞い、荒野に落ちる。
若いハンターが歓声を上げる。
「やった!」
だが。
ティガレックスの咆哮が変わる。
尾を失った怒りが暴発する。
重心が乱れる。
制御していた流れが崩れる。
「……しまった」
傭兵が低く呟く。
ティガレックスが振り向く。
標的は、傭兵。
突進。
大剣で受ける。
だが怒りは重い。
押し込まれる。
岩が砕ける。
――死
その単語が明確に浮かぶ。
その瞬間。
巨大な影が弧を描く。
大タル爆弾。
ワイヤーの糸が、ティガレックスの脚に絡んでいる。
即席のトラップ。
――大樽?発射された!?
直撃。
爆炎。
巨体が横へ弾かれる。
しらゆきが踏ん張る。
「神童アイルーをなめるなニャ!」
女ハンターはすでに動いている。
ワイヤーで横移動。
撃つ。
急所ではない。
地面。
別の地点。
爆発が点在する。
戦場は、少しずつ傾いている。
第三章 戦場の設計
爆炎が晴れる。
尻尾を失ったティガレックスが、なお立っている。
若いハンターが叫ぶ。
「このまま討伐だ!」
女ハンターは撃つ。
前脚の着地位置。
踏み込み角度。
地面内部。
ワイヤーで上昇。
俯瞰。
爆弾跡。
転倒位置。
受けた衝撃線。
それらが一本の弧を描いている。
ティガレックスが突進する。
導かれるように。
半拍。
踏み込む。
岩盤の奥から、鈍い破断音。
地面が崩れた。
巨大な亀裂。
崩落。
咆哮が谷へ落ちる。
砂煙。
銃声。
出口側の岩壁が崩れる。
進路が限定される。
女ハンターは静かに言った。
「制御、完了しました」
傭兵が呟く。
「これを……狙ってたのか」
風が砂をさらう。
「最初から。か……」
第四章 討伐記録
ギルド窓口。
「金冠級ティガレックス。落下確認。戦闘不能と判断した」
若いハンターの声は整っている。
窓口係が巨大な尾を確認する。
「しかし、落下のみでは――」
「私はエドモンド・レフレ。ここの責任者と話をさせてくれ。」
沈黙。
奥から声。
「ちょっと、キミィ…」
上役が窓口係を呼ぶ。
小声のやり取り。
「……例の件です」
「規定が……」
「構わない。処理しておけ」
戻る。
「……討伐と認めます」
筆が走る。
若いハンター――エドモンドの背が伸びる。
外で歓声。
傭兵は壁にもたれる。
「……落としたのは、あんただ」
女ハンターは答える。
「問題、ありません」
――夜
荒野は冷える。
傭兵は崖へ戻る。
昼間の戦闘の痕跡を確かめるために。
崩落した岩
ライトボウガンで破壊できるものではなかった
やはり、小さな爆弾が仕掛けられていた痕跡がある
「戦闘前からの仕掛け…か」
ふとみると、崖の上には昼間の女ハンターとしらゆきがいた。
こちらに気が付いたようだ。
谷を見下ろす。
遠くから、低い咆哮。
女ハンターが言う。
「…移動、できたみたいですね」
ほんのわずかな安堵。
傭兵が言う
「不殺か…強者だけが選べる贅沢……だな。」
アイルーが胸を張る。
「一件落着!ニャ!」
二人と別れた後、傭兵は報告書を静かに開いた。
盟友:ヴィクトル・ハウザー
金冠ティガレックス尻尾切断の貢献
そして、報告書の最後に、埋め合わせのように書いてある記述に目が止まる
協力者:深雪
通称:静雪の射手
「……静雪の射手。か」
「世の中、とんでもない奴がいるものだな」
傭兵は報告書を静かに閉じた。
夜が、荒野を包んでいた。

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