フェルヴァールの赫槍 後編② 風穴谷

妄想狩猟小説
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王都フェルヴァールを出発した騎士団は、
半日ほどで雪原の奥へ到達した。

空は薄く曇り、冷たい風が低く吹いている。

視界の先には山の裂け目。

黒い岩肌が露出した谷。

エルンが言う。

「風穴谷だ」

雪風が低くうなずいた。

「……名の通りだな」

谷の奥から、断続的に風が吹き出している。

雪が舞い上がり、白い霧のように流れていた。

騎士団は雪原の縁で隊列を止める。

カイルが振り向いた。

「ここから先は作戦通りだ」

エルンが地図を広げる。

雪の上に描かれた簡易地図。

いくつかの地点に印がある。

「現在位置はここ」

「雪原の南端」

指先が北へ動く。

「中央が誘導地点」

「落とし穴はここに設置済み」

騎士の一人が言う。

「罠は完成しています」

エルンはうなずく。

さらに指を横へ動かす。

「東側が氷湖」

遠くに青い氷の平面が見える。

凍った湖だった。

エルンが言う。

「水面に雷が落ちると危険だ」

「ラージャンを湖側へ寄せるな」

カイルがうなずいた。

「戦場は雪原中央だ」

「そこで落とす」

しらゆきが手を上げる。

「質問ニャ!」

騎士団の何人かが振り向いた。

エルンが言う。

「なんだ」

しらゆき

「誘導はみゆきがやるニャ?」

深雪はうなずいた。

「はい」

カイルが笑う。

「ヴィクトルの報告書で読んだ」

「ティガレックスを誘導したんだろ?」

深雪

「似たようなものです」

エルンが深雪を見る。

「風穴谷の入口から出す」

「そのまま中央へ誘導」

「できるか?」

深雪は短く答えた。

「できます」

しらゆきが胸を張る。

「みゆきなら余裕ニャ!」

雪風が静かに言う。

「……相手はラージャンだ」

「慎重にな」

しらゆき

「わかってるニャ!」

カイルが槍を持ち上げた。

「よし」

「作戦開始だ」


騎士団が散開する。

二十名。

雪原に広がる鋼の陣形。

ランス。

大剣。

太刀。

それぞれが持ち場へ向かう。

エルンが指示を出す。

「監視は岩尾根」

雪原の西側。

低い岩の尾根があった。

騎士が一人走っていく。

「通信を維持」

腰の装置に手を当てる。

翔蟲応用通信器。

遠距離でも声が届く。

エルンが言う。

「接近があれば即報告」

騎士

「了解」

カイルが深雪を見る。

「ミユキ」

「準備は?」

深雪はライトボウガンを背負い直した。

「問題ありません」

しらゆきが言う。

「行くニャ!」

雪風が静かに続く。

三人が雪原を進む。

風穴谷へ。


谷は静かだった。

岩壁の隙間から
冷たい風が吹き出している。

しらゆきが耳を立てる。

「……いるニャ」

雪風が言う。

「気配が濃い」

深雪は岩陰から谷の奥を覗いた。

そこにいた。

巨大な影。

黄金の毛並み。

筋肉の塊のような身体。

長い尾。

ラージャン。

岩の上で腕を組むように座っていた。

雪風が低く言う。

「間違いない」

しらゆきが小声で言う。

「でかいニャ……」

深雪は息を整える。

そして通信を入れた。

「こちらミユキ」

「ラージャン確認」

エルンの声がすぐ返る。

「了解」

「作戦開始」

深雪は雪原を見た。

遠く。

騎士団の陣形が広がっている。

中央。

落とし穴。

すべて予定通り。

深雪は小さく息を吐いた。

「……行きます」

次の瞬間。

雪を蹴った。

谷に向かって飛び出す。

ライトボウガンを構えながら。

ラージャンの目が動いた。

金色の瞳。

ハンターを見た。

深雪は撃つ。

銃声。

岩壁に響く。

ラージャンが立ち上がる。

怒りの咆哮。

谷が震えた。

深雪は振り返りながら走る。

「こっち!」

黄金の巨獣が跳んだ。

風穴谷から

ラージャンが

雪原へ飛び出した。

戦いが始まった。

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