フェルヴァールの赫槍 後編① 王都

妄想狩猟小説
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王都フェルヴァールは、冬の空気に包まれていた。

石畳の通りには人の往来が多く、商隊の荷車が行き交っている。

街並みを歩く、1人と2匹のオトモ。

女性は、ぱっと人目を惹くほどの美女だった。

女性にしては背が高く、長く黒い髪。
角度によって、微かに蒼く見える。

その瞳は、薄い青色をしていた。

その隣には白銀のガルク。

どれほど戦えばこうなるのか、全身に無数の傷跡。

それを隠すように、背と腕に鎧をまとっている。

その眼光は、只者ではない威圧感を放っていた。

「おい、あの女……」

どこの街にもいるような、ならず者風の若者が女性を見た。

そして。

隣を歩くガルクと目が合った瞬間――

若者はすごすごと人ごみに紛れていってしまった。

アイルーが言う。

「あ!また雪風が男の人を追い払っちゃったニャ。」

「これだから、みゆきはキレイなのに全然モテないニャ」

王国からの依頼でカムラの里からやってきた
ハンター深雪と、ガルクの雪風、アイルーのしらゆきだった。

深雪たちが騎士団の詰所へ向かう途中。

広場に人だかりができていた。

しらゆきが耳を立てる。

「なんニャ?」

深雪が視線を向ける。

中央に立っているのは、長い白髪の輝く細身の騎士だった。

整った顔立ち。

装備に施された装飾から、かなり位の高い家の者とみられた。

その前には、的が並んでいる。

木の円板。

距離はかなり離れている。

周囲の騎士が笑っている。

「無理だろそれは」

「拡散弓だぞ」

「当たるわけない」

白髪の騎士は腕を組んでいる。

「まぁ、いいから見てろ」

弓を構える。

――拡散弓。

矢は放たれると複数に分裂する。

通常は近距離で面制圧する武器だ。

遠距離で正確に当てるものではない。

白髪の騎士が言う。

「じゃあ、いくぞ」

弦が鳴る。

矢が飛ぶ。

空中で分裂する。

四本。

散る。

――速い。

深雪の目だけが、わずかに動いた。

その瞬間。

四つの的が同時に揺れた。

中央。

右。

左。

奥。

全部当たっている。

広場が静まり返る。

次いで、人々の歓声。

騎士の一人が言う。

「……嘘だろ」

別の騎士が言う。

「拡散だぞ」

白髪の騎士は弓を下ろし、目を閉じて言った。

「風を……読むんだ」

隣にいた大柄な赤髪の騎士が豪快に笑う。

白髪の騎士は決して小さくはない。

だが彼の隣に立つと、小さく見えてしまうほどの体躯だった。

黄金の重鎧。

鎧の胸元には三本の傷。

炎のような真っ赤な髪。

赤髪の騎士の瞳は、いたずらっぽく金色に輝いていた。

「風?嘘つけ」

「でも、お前って昔からすげー器用だよな!」

白髪の騎士が肩をすくめる。

「まぁ、こんなのは曲芸だな」

しらゆきが興奮している。

「すごいニャ!!」

深雪は少しだけ目を細めた。

「……」

矢の軌道。

分裂。

時間差。

偶然ではない。

しらゆきが言う。

「みゆき!」

「見たかニャ!」

深雪が静かに頷く。

「ええ、すごいですね。」

白髪の騎士はすでに騎士団の詰所へ歩き出していた。

しらゆきが小さく言う。

「……あれ」

「戦いで使えるのかニャ?」

雪風が答えた。

「確かに、素晴らしい技術ではある。」

「だが、おそらく実戦では使わないだろう。」

「騎士団は通常、集団で戦う。」

「あのような打ち方よりも、四人で一つずつ狙う方が数も撃てる上に当てやすい。」

「それが、実戦というものだ。」


騎士団の詰所は王城の外郭にあった。

重い扉を押して中に入る。

室内には二人の男がいた。

先ほど広場にいた赤髪と白髪の騎士だった。

赤髪の騎士が深雪を見た。

「……君がミユキかい?」

深雪は軽く頭を下げた。

「はい。ギルドの依頼で」

弓の男が書類を閉じる。

「報告書は読んだ」

「ティガレックス討伐」

「誘導戦術……見事だった」

深雪は少し驚く。

「……ご存知なんですね」

赤髪の騎士が目を輝かせて言う。

「ヴィクトルという男が参加していただろ?」

「覚えているか?」

深雪はうなずく。

「ええ」

「一緒に戦いました」

「あのハゲたでかいおっさんニャ」

「ハゲ?そりゃきびしいな」

赤髪の騎士がくすりと笑った。

「お前、少しは否定しろよ」

白髪の騎士も笑っている。

赤髪の騎士がふと真顔になった。

「そいつが言ってたんだ」

「“ミユキっていうとんでもなく優秀なハンターがいる”ってな」

その時。

しらゆきがぴょこんと前に出た。

「優秀どころじゃないニャ!」

「うちのみゆきはすごいニャ!」

赤髪の騎士は少し目を丸くした。

「わかったわかった。すごいんだな!」

白髪の騎士が言う。

「ミユキのオトモだろう」

しらゆきは胸を張る。

「しらゆきニャ!」

「アイルー界の神童!」

赤髪の騎士はくすっと笑った。

「元気だね」

そして深雪を見る。

「ミユキ、出身は?」

深雪は答えた。

「カムラの里です」

その瞬間。

赤髪の騎士の目が変わった。

「……カムラ?」

少し考える。

「なあ」

「マスター・テツシン、知ってるか?」

深雪は少し首をかしげた。

「……父です」

沈黙。

赤髪の騎士の目が丸くなる。

そして。

「オーッ!?」

赤髪の騎士が声を上げた。

「テツシンの娘!?」

深雪は驚く。

「……え?」

赤髪の騎士は深雪をまじまじと見る。

「おいおい……」

「まさか……」

「あの時の小さい子か!?」

深雪は思い出す。

「……父の道場に来ていた方ですか?」

赤髪の騎士は大きくうなずいた。

「そうそう!」

「若い頃、翔蟲を教わりにカムラに行っててさ」

しらゆきが目を輝かせた。

「翔蟲!?」

赤髪の騎士は笑う。

「テツシンには世話になったよ」

そして深雪を見て言う。

「しかし……」

「あんな小っちゃかった子がこんなベッピンさんになるとはなぁ」

横から声。

「おい」

白髪の騎士だった。

「カイル」

「女性に対する言動は気をつけろ」

「以前もそれで問題になっただろう」

カイルの動きが止まる。

「わ」

「わかった!」

「気をつける!」

しらゆきが笑う。

「ニャハハ!」

「『フェルヴァールの赫槍』ってもっと怖い人かと思ったニャ!」

カイルが振り向く。

「ん?」

「それも知ってるのか?」

しらゆきは興奮気味に言う。

「カムラで聞いたニャ!」

「すごい騎士がいるって!」

「竜を一撃で倒すって!」

カイルは苦笑した。

「なんか、話盛られてんなぁ……」

エルンが横で笑う。

しらゆき

「すごいニャ!!」

雪風が静かに言った。

「……なるほど」

「噂の騎士というわけか」

カイルは肩をすくめた。

「ただの騎士だよ」


エルンが地図を指した。

「被害はこのエリアだ」

雪原の商道。

「商隊が三つ襲われている」

「護衛は全滅」

「調査隊の報告ではかなり大きいラージャンがいるとの事だ」

しらゆきが耳を伏せる。

「ひどいニャ……」

カイルが腕を組む。

「被害は出てる」

「ならやることは一つだ」

エルンが地図上の星印の箇所を叩く。

「ラージャンはここ」

「風穴谷」

「誘導して」

地図上の×印を示す。

「ここで、落とし穴に落とす」

しらゆきがすぐ言う。

「誘導ならミユキが得意ニャ!」

エルンはうなずいた。

「聞いている」

「ティガレックスをうまく誘導したようだな」

深雪は静かに言う。

「できます」

カイルが笑う。

「よし」

「じゃあ頼む」


その夜。

深雪は詰所の外に出た。

王都の城壁の上。

遠くの山が見える。

雪風が隣に立った。

風が吹く。

深雪は目を細める。

「……冷たい」

雪風が言う。

「うむ」

「山の風にしては強い」

遠くの雪原。

一瞬だけ。

雪煙が渦を巻いた。

深雪は目を細める。

「……?」

風はすぐに消えた。

ただの雪の動き。

そう思える程度のものだった。

だが、深雪はしばらく山を見ていた。


翌朝。

騎士団が動き出す。

鎧の音。

馬のいななき。

カイルが槍を肩に担いだ。

「行くぞ」

エルンが弓を背負う。

「予定通りだ」

深雪も装備を整える。

しらゆきが言う。

「ラージャンなんて一発ニャ!」

雪風が静かに言う。

「油断はするな」

城門が開く。

騎士団とハンター。

混成の隊列が白い雪原へと進み出した。

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