第三章:再戦
山道を戻る途中だった。
森は静かだ。
ゆうたが太刀を肩に担ぐ。
「結局、追わなかったな」
少しだけ不満が混じる。
「里から離れたなら、目的は達している」
コマツが淡々と言う。
ゆうたは横を見る。
「でも、勝てただろ」
その視線は深雪に向いている。
深雪は少し間を置く。
「被害はありませんでした」
答えは短い。
肯定も否定もしない。
ゆうたはそれ以上言わないが、納得していない顔だ。
ミツネが空気を和らげる。
「まあ、初任務だしね。無事が一番」
その時。
低い唸り声。
「……近い」
コマツが足を止める。
藪が揺れ、ヨツミワドウが姿を現す。
さきほどより近い。
退いたはずの水場とは逆方向から。
「追ってきた?」
ミツネの声が小さくなる。
コマツが短く説明する。
「ヨツミワドウは水場を中心に縄張りを持つ。通常は一定距離まで追い払えば戻る」
視線が鋭くなる。
「だが、縄張り意識が異常に強い個体もいる。侵入者を執拗に排除する」
目の前の個体は、その目をしていた。
浅い呼吸。
鋭い視線。
ゆうたが前に出る。
「いくぞッ、コマツ、ミツネ!」
「待て、様子を――」
コマツの声は半拍遅い。
太刀が閃く。
今度は踏み込みが慎重だ。
刃が深く入る。
ヨツミワドウが後退する。
「効いてる!」
ミツネが横から牽制。
舌が伸びる。
だが今度は読めている。
翔蟲でかわす。
コマツが盾で進路を絞る。
砲撃。
爆音。
土が跳ねる。
三人の連携は、先ほどよりも明らかに有効に機能していた。
「いけるッ!」
ゆうたがさらに踏み込む。
その瞬間。
ヨツミワドウが低く沈む。
前脚が振り上げられる。
「下――」
突き上げ。
衝撃。
「ぐはッ」
ゆうたの体が弾かれる。
太刀が手から離れ、地面を転がる。
「ゆうた!」
ミツネの声が震える。
コマツが盾で割り込む。
衝撃が腕に響く。
ゆうたは立ち上がり、再び太刀を構える。
だが、息が荒い。
額に赤い線が流れる。
「平気だッ……!やるぞッ!」
強がりだ。
さきほどまでの余裕が消える。
ヨツミワドウが再び跳ぶ。
――あきらかに弱っているゆうたを狙っている。
三人の呼吸が一瞬乱れる。
その瞬間。
閃光が森を白く染めた。
炸裂音。
ヨツミワドウが目を細め、動きが止まる。
深雪が、静かに閃光玉を放っていた。
「距離を」
短い声。
コマツ、ミツネがゆうたをかばい素早く後退する。
ヨツミワドウは視界を奪われ、方向を失う。
数歩、よろめき、森の奥へ退く。
深雪は追わなかった。
静寂が戻る。
ゆうたが肩を押さえながら言う。
「……もう少しでッ!」
深雪はヨツミワドウの消えた方向を見ている。
「縄張りを守ろうとしただけです」
それ以上は言わない。
森は静かだ。
三人は、互いの呼吸を確かめる。
――勝てたかもしれない。
だが、無傷ではなかった。
その事実だけが残る。


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