Ⅰ.プロローグ:語られる伝説
――山麓道場
山から降りる冷気が、開け放たれた障子を揺らしていた。
畳の中央に茶碗。湯気がゆらりと立つ。
鍛錬後の緩んだ空気。
深雪、アイルーのしらゆきが並び、
その横にガルクの雪風。
対面にゆうた、コマツ、ミツネ。凹凸三人組だ。
そして輪の外側を静かに見渡す4人の師匠である徹心。
五十代前半のはずだが、少し若く見える。
192cm、110Kg。
太い――とにかく太い。
脂肪ではない。骨格と筋肉が常人の倍あるかのような豪壮さ。
腕は丸太、首は岩柱。
道着の上からでもわかる規格外の体躯。
「長旅、ご苦労だったな」
低く響く声。
「金冠ティガ、倒したんだって?」
ゆうたが身を乗り出す。
しらゆきがすくっと立ち上がる。
「でっかいティガレックスだったニャ! 山が揺れるくらいのサイズだったニャ!」
両手を思い切り広げる。
「しかも金持ちの坊ちゃんが突っ込んでいって、いきなりやられそうになったニャ!」
「無茶するなぁ、その依頼主……」
ミツネが苦笑する。
「そこで!!」
しらゆきが畳をばんっと叩く。
「ボクの罠が作動したニャ!!!」
ゆうたが吹き出す。
「はいはい、始まった」
「崖際に誘導して、地盤の緩いとこに踏み込ませて、下に爆弾仕込んでおいたニャ!
起爆のタイミングは完璧! あれは芸術ニャ!」
コマツが腕を組む。
「金冠個体は筋密度が高い。通常爆破では――」
「だから通常の三倍仕込んだニャ!」
「三倍!?」
「ボクが配置、深雪が誘導、ボクが起爆! どっかーんニャ!!」
ゆうたが笑いながら言う。
「で、最後に深雪が落としたんだろ?」
「細かいこと言うなニャ!」
しらゆきの尻尾がぶわっと膨らむ。
雪風が、少し困ったように言う。
「……話を聞く限り、相当危うい状況だったようだな」
「危ういどころじゃなかったニャ!」
しらゆきが身振り手振りを交えて再現する。
「坊ちゃんが吹っ飛んで、ティガが振り向いて、傭兵のおっさんが挟まれて、その瞬間!」
両手をぱっと広げる。
「ボクの罠が炸裂!!」
ゆうたが肩を震わせる。
「それ、爆弾は深雪が調整したやつだろ」
「ぐ……」
一瞬詰まるしらゆき。
「……でも配置はボクだニャ!」
「そこは認めよう」
コマツが真顔で頷く。
ミツネがほっと息をつく。
「深雪ちゃんが無事で、本当に良かった」
深雪が小さく微笑む。
「……しらゆきのおかげです」
しらゆきの耳がぴくりと立つ。
「……ま、まぁ当然ニャ。ボクはアイルーの神童だからニャ」
だが尻尾は止まらない。
徹心が静かに頷く。
「無事で何よりだ」
その声は、何よりも重い。
そして。
コマツが急に身を乗り出した。
「そういえば次の任務――王国騎士団第一戦技隊からの依頼なんでしょ?」
「騎士団?」
ゆうたが首を傾げる。
コマツの目が輝く。
一拍。
「だとすると、カイル・ヴァルディンと一緒の作戦!?」
空気が張り詰める。
雪風が静かに言う。
「……その名は聞いたことがある」
コマツは止まらない。
「透明化する古龍種の強化個体。毒霧で森を沈め、精神を攪乱し、救出隊が戻らなかった」
畳の上の空気が冷える。
「それでも帰ってきた二人がいる」
ゆうたが息を飲む。
「二人?」
コマツが低く言う。
「フェルヴァールの赫槍」
火がぱちりと鳴った。

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