第四章:夕暮れ
里の灯が、ひとつずつ点いていく。
ゆうたは肩を押さえながら歩いている。
傷は浅い。だが、思ったより重い。
「……止めきれなかった」
小さく、独り言のように。
誰も聞いていないふりをする。
コマツは何も言わない。ただ歩調を合わせる。
ミツネは横目で見る。
(分かってるんだ)
ゆうたは怒っていない。
誰かのせいにしていない。
自分の踏み込みを思い返している。
(あと半歩、深かった)
夕焼けが太刀の鞘を赤く染める。
茶屋の前を通る。
「お、戻ったか」
「どうだった?」
「追い払った」
ゆうたはそれだけ答える。
老人は笑う。
「なら十分だ」
子どもが駆け寄る。
「でっかいカエル、やっつけた?」
ミツネがしゃがむ。
「ううん、帰ってもらったの」
「なんで?」
少し考える。
「お腹すいてただけかもしれないから」
子どもは首を傾げるが、すぐに走っていく。
ゆうたがぽつりと言う。
「……勝てた」
深雪に向けた言葉。
深雪は止まらない。
「倒せたかもしれません」
静かな声。
「けれど、必要はありませんでした」
ゆうたは何も言わない。
拳を握り、ゆるめる。
悔しさはある。
でも、否定はしない。
ミツネは夕焼けを見上げる。
空が橙から群青へ変わっていく。
(私たち、勝とうとしてた)
(でも深雪ちゃんは、終わらせようとしてた)
ヨツミワドウの呼吸を思い出す。
浅く、速い呼吸。
あれは怒りじゃなかった。
(守ってただけなのかな)
ミツネは深雪の隣に並ぶ。
「どうして、追わなかったんですか?」
声は柔らかい。
「飢えていました」
短い。
「それだけですか?」
少しの間。
「十分です」
夕風が吹く。
ミツネはその横顔を見る。
(ああやって、見てるんだ)
(私は、まだ勝つことしか見てなかった)
「私も、見えるようになりますか?」
深雪はほんのわずかに視線を向ける。
「見ようとすれば」
ミツネは目を閉じる。
風の匂い。
夕焼けの色。
ゆうたの荒い呼吸。
コマツの静かな足音。
全部、そこにある。
(見ようとすれば……か。)
ゆうたが肩を回す。
「次は、止める」
コマツが小さく頷く。
「次は、合わせる」
ミツネはゆっくり息を吸う。
(次は、見る)
里の灯りが揺れる。
茶屋から笑い声。
「最近の凸凹三人組はどうだ?」
「元気だけはあるな」
からかい半分。
悪意はない。
ミツネは少し笑う。
(でも――)
遠くの山が闇に溶ける。
(いつか、隣に立って、同じ景色を見たい)
夕暮れが、静かに落ちた。
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