第二章:苦い手応え
依頼書は簡素だった。
里近郊の水場にヨツミワドウ出没。
畑を荒らす前に対処せよ。
「討伐、ですね」
コマツが紙を折りたたむ。
「通常個体。中型。脅威度は中程度」
「中型なら押せるっしょ」
ゆうたが太刀の柄に手をかける。
「押せるかどうかは、行ってみないと」
ミツネが穏やかに言う。
深雪は何も言わない。
山道を進む。
足元の土は乾き気味だ。
水場に近づくと、露出した岸辺が目についた。
「……浅い」
コマツがしゃがみ込む。
確かに水位が低い。
泥が広く見えている。
大きな足跡。
だが、思ったより沈んでいない。
「軽い?」
ミツネが呟く。
ゆうたは太刀を抜く。
「へっ、痩せてんだろ」
藪が揺れる。
現れたヨツミワドウは、確かに腹が膨れていなかった。
皮膚は張りを欠き、全体に締まって見える。
だが、目は鋭い。
「……警戒してる」
コマツが低く言う。
次の瞬間。
跳んだ。
想定より、軽い。
「速いッ!だがなッ!」
ゆうたが踏み込む。
斬り上げ。
刃は当たる。
だが巨体は止まらない。
軽い分、着地が早い。
泥を蹴り、再び距離を詰める。
前脚が振り下ろされる。
コマツが盾で受ける。
衝撃が腕に伝わる。
「重い……!」
軽量なのに、打撃は鋭い。
「脂肪が少ない分、筋肉が締まっている?」
コマツが短く呟く。
ヨツミワドウの喉が鳴る。
舌が伸びる。
一直線。
「舌、来る!」
ミツネが翔蟲で横へ飛ぶ。
舌が泥を叩き、水しぶきが上がる。
ゆうたが横から斬り込む。
「今だッ!」
だが振り終わりに、わずかな隙。
ヨツミワドウは横へ跳ぶ。
「止まらねえッ!」
腹は膨らまない。
膨張の兆候がない。
「膨張型じゃない……脂肪不足で膨らめない個体かもしれない」
コマツの分析は早い。
軽い。速い。
だが呼吸は浅い。
深雪は少し離れた位置で、ライトボウガンを構えたまま見ている。
風向き。
足の沈み込み。
ヨツミワドウの胸の上下。
水面が小さく波打つ。
浅い。
餌が足りていない。
ゆうたが再び踏み込む。
今度は慎重に。
刃が深く入る。
ヨツミワドウが後退する。
だが倒れない。
「決めきれない……」
コマツが言う。
戦いは拮抗している。
三人は大きな傷を負っていない。
だが、噛み合っていない。
ほんの半歩。
それだけのずれ。
ヨツミワドウが喉を鳴らす。
呼吸が荒い。
浅い。
その瞬間。
乾いた発射音が森に響く。
徹甲榴弾が前脚を打つ。
体勢がわずかに崩れる。
「今です」
深雪の声。
短い。
三人の動きが一瞬揃う。
ゆうたが斬り込む。
コマツが進路を限定する。
ミツネが横から攪乱する。
ヨツミワドウが後退する。
深雪は追わない。
雷撃弾が退路を森側へ制限する。
水場から、離れる。
唸り声。
森の奥へ消えたヨツミワドウの気配が、ゆっくりと薄れていく。
水面が静まり、砂煙が落ちる。
ゆうたが太刀を鞘に収める。
「……逃げたな」
コマツは泥に残った足跡を見つめる。
やはり、沈み込みが浅い。
「重量が一致しない」
小さく呟く。
ミツネは水面を見つめる。
波はすぐに消える。
(速かった。でも、膨らまなかった)
深雪は森を見つめたまま言う。
「里から離れました」
静かな声。
三人は頷く。
討伐はしていない。
被害も出ていない。
山道を戻る。
ゆうたは、さきほどの踏み込みを思い返す。
(止まるはずだった)
コマツは、間合いを頭の中で引き直す。
(半歩、速かった)
ミツネは一度だけ振り返る。
森の奥は、もう静かだ。
誰も口にはしない。
けれど、それぞれの胸の奥に、
小さな違和感だけが残っていた。
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