言うまでもないですが本サイトの作品はカプコンさんおよびゲームの公式な関係者様とは全く関係ない一般人の創作(妄想)となります。
しかし、もし許しがたいような問題があるようでしたら、コメント等でお知らせいただければ幸いです。
登場人物紹介
- アルデラン・カムツマギ — 後の高名な編纂者。調査隊所属。自らのルーツである東方の地の見分を広げる旅の途中で戦闘に巻き込まれる。
- 深雪(みゆき) — 凄惨な山村被害に関してカムラの里から偵察任務を請負ったハンター。
通称「静雪の射手」 - 蒼眼(そうがん)の巨獣 — 20年前にカムラの里のツワモノに撃退されたラージャン。
成長抑制がなく、規格外の巨体。雪山の山間の村民を皆殺しにしている。被害状況の確認と偵察に訪れた深雪を待ち伏せ・不意打ちし、戦闘に。
第二章 雷禍の前触れ
巨獣は、すでに傷を負っていた。
それは致命的なものではない。
だが、確実に効いている傷だった。
右肩の筋肉は深く裂け、雷光の走り方が微妙に歪んでいる。
脚部には細かな裂傷が蓄積し、跳躍と着地のたびに雪面が不自然に抉れた。
ハンターは距離を保ったまま、淡々と仕事を重ねていた。
動作は一見すると単調なシンプルなもの。
属性弾もほとんど使っていない。
狙うのは、関節、神経の集中点、雷の流れが乱れる箇所だけ。
――討つ気はない。
――止めて、縛って、時間を稼ぐ。
それが、この状況における最適解だった。
私はその背中を、少し離れた岩陰から見ていた。
あの距離感は、偶然ではない。恐怖による後退でもない。
最初から「そうあるべき位置」を選び続けている。
巨獣を目にした瞬間から、胸の奥に引っかかるものがあった。
あの眼だ。
失われた片眼の眼窩から、白蒼い光が滲むように漏れている。
――蒼眼の巨獣。
そんな呼び名が、かつて読んだ記録にあったような気がする。
カムラの里の、ツワモノたちが20年ほど前に相対した個体。
甚大な被害をもたらし討伐寸前まで追い詰めたものの、それでも逃げ延びた大型のラージャン。
だが、記録の中のそれと、目の前の存在は明らかに違う。
――規格外
そんな言葉が頭をよぎる。
記録でもかなりの大きさだったはずだが、目の前のそれの体躯は通常個体の比ではない。
筋肉の密度、骨格の太さ、雷を内包する器としての完成度――
ただ生き延びただけでは、こうはならない。
脳裏に、嫌な仮説が浮かぶ。
脳へのダメージによる成長抑止機構の破壊。
過剰な力を持つ個体が、自壊しないために備えているはずの安全装置。
それが、あの時の損傷で壊れたのだとしたら。
――止まらない。
――老いない。
――際限なく肥大する。
目の前の雷鬼は、その成れの果てではないのか。
ハンターの弾丸が、正確にもう一箇所を穿つ。
肩の付け根。雷の収束が一瞬だけ乱れ、巨体が僅かに体勢を崩した。
巨獣は苛立っていた。
圧倒的な膂力で捻り潰せるはずの相手が、致命を避け、確実に“嫌な場所”だけを削ってくる。
怒りではない。殺意でもない。
それは、玩具が思い通りに壊れないことへの不快感だった。
巨腕が地面を叩き割り、雷が雪嶺を走る。
だがハンターは一歩も前に出ない。
射線は常に一手先、次に来る動きの“終点”に置かれている。
この距離、この間合い。
観察すると巨獣はハンターの動きをある程度読んでいるようだった。
――どれだけの戦いを経れば野生の獣がこのような知性を得るのだろうか。
しかし、このハンターの動き方は私の知るハンター達とは大きく異なっていた。
だからこそ、均衡が保たれている。
そして同時に、それがいつ崩れてもおかしくないことも、私は理解していた。
その時だった。
空気が、変質した。
帯電した空気が皮膚を刺し、金属装備が低く震え始める。
雷光が、地面と空気を伝って巨獣の口元へと収束していく。
――違う。
ハンターは、初めて僅かに動きを止めた。
視線が、獣の全身ではなく、その“一点”に固定される。
――出力が、今までと違う?
ハンターもそれを感じ取ったようだった。
それは本能ではなく、経験に裏打ちされた、即時の理解だったのだろう。
確実に仕留めるための、必殺の一撃。
――何か、来る。
回避行動を取るには、遅い。
遮蔽物は、意味を成さない。そう直感させる。
判断が終わる前に、世界が白く歪んだ。
放たれた雷光は、直線だった。
――否。
直線であるはずだった。
ハンターの視界の端で、投げ捨てられた金属片が弾けた。
足元に転がっていた、破損した装備の一部。
意図したものではないのだろう。
本能的な動作だったように見えた。
雷光が、わずかに逸れた。
雪嶺が裂け、衝撃波が遅れて叩きつけられる。
音が消え、視界が白に塗り潰される。
直撃を免れたとはいえあの衝撃波。
――あのハンターもただではすまなかっただろう。
目の錯覚か、巨獣の放った雷光はその出力の異常な大きさに加え、直線状のものと同時に螺旋状のものを放っているように見えた。
直撃すれば、即死は免れなかったであろう。
攻撃を外した巨獣の眼窩に刹那、動揺の光が見える。
だがそれはすぐに自信の光に変わった。
おそらく、今のが“当たらなかった”のは、ただの偶然だったということを理解したのだろう。
巨獣は低く唸り、白蒼い光が眼窩の奥で脈動する。
言葉を話さないはずの巨獣だが、その意思は私にも容易に理解できた。
『次は、確実に殺す。』
雪嶺に、再び沈黙が落ちた。
それは、次の一手を選ぶための、ほんの僅かな猶予だった。

コメント