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登場人物紹介
- アルデラン・カムツマギ — 後の高名な編纂者。調査隊所属。自らのルーツである東方の地の見分を広げる旅の途中で戦闘に巻き込まれる。
- 深雪(みゆき) — 凄惨な山村被害に関してカムラの里から偵察任務を請負ったハンター。
通称「静雪の射手」 - 蒼眼(そうがん)の巨獣 — 20年前にカムラの里のツワモノに撃退されたラージャン。
成長抑制がなく、規格外の巨体。雪山の山間の村民を皆殺しにしている。被害状況の確認と偵察に訪れた深雪を待ち伏せ・不意打ちし、戦闘に。
第一章 ある編纂者の記録
この記録は、私がアルデラン・カムツマギの旧宅を整理していた際、書斎の奥から発見した手記の一つである。
アルデランは編纂者として大成し、多くの記録を後世に残した人物だ。
晩年は表舞台から退き、静かな生活ののち、穏やかな最期を迎えたと伝えられている。
彼の死後、正式に編まれた記録群とは別に、個人的な観察や思索を記した手帳が複数残されていた。
本稿は、その中の一冊――東方調査の際に記された断片的な走り書きをまとめたものである。
以下に記す文章は、手記に残されていた内容を、可能な限り原文のまま写したものだ。
読み手である私は、ここでは一切の注釈を加えない。
カムラの里は、私の知る限り、奇妙なほどに穏やかな土地だった。
山に囲まれ、霧と風の流れに守られ、外界の騒乱から半歩だけ距離を置いている。人々は忙しなく働きながらも、どこか落ち着いている。
鍛冶場の火花、団子屋の甘い香り、訓練場に響く掛け声。
すべてが日常として循環していた。
私は調査団の見習い記録係として、東方の文化に関する見聞を広げる目的でこの里に立ち寄っていた。
長居をするつもりはなかったが、情報というものは、足を止めなければ集まらない。
滞在中、里でよく耳にした噂が二つある。
一つは、雪山方面で頻発している集落の壊滅。
もう一つは、“静雪の射手”と呼ばれる若いハンターの話だ。
前者について、里人は多くを語らなかった。語りたがらない、というより、語る言葉を持っていない様子だった。
村が消えた。人がいなくなった。ただそれだけだ、と。
モンスターの名を挙げる者はいたが、その口調はどこか曖昧で、断定を避けているように聞こえた。
後者――深雪という名のハンターについては、逆に情報が多かった。
だが、そのどれもが不思議なほど具体性に欠けている。
曰く、支援が上手い。
曰く、判断が早い。
曰く、いると被害が少ない。
誰一人として、「強い」とは言わなかった。
武勇談も、派手な討伐記録もない。ただ、結果だけが淡々と残る。
私はこの時、彼女を“優秀な裏方”程度に認識していた。
それ以上でも以下でもない。
里を発つ前夜、酒場の片隅で、年配のハンターから一つだけ興味深い話を聞いた。
「雪山の奥で、あの子が一人で調査に出たらしい」
「危なくないのか、と聞いたらな……『問題ありません』、ってさ」
それだけの話だ。
だが、なぜかその短い言葉が、耳に残った。
里を出てから数日、私は雪山へ向かう山道を進んでいた。
調査団の任務ではない。あくまで個人的な見聞のためだ。
地形、生態、伝承――どれも机上では得られない情報ばかりである。
天候は安定していたが、雪は深い。
音が吸われ、距離感が狂う。視界は白と影の二色だけだ。
異変に気づいたのは、唐突だった。
――振動。
最初は雪崩かと思った。
だが、周期が違う。重く、意図的な揺れだ。
続いて、雷鳴に似た音が腹の底に響いた。
ただし、それは空からではなく、地の奥から来ていた。
私は反射的に身を伏せた。
非戦闘員の判断としては、正しい行動だったと思う。
次の瞬間、視界の先で、雪煙が弾けた。
巨大な影が跳ぶ。
否、跳んだのは人影のほうだった。
雪原を横切るように、細身のハンターが滑り、転がり、立ち上がる。
その動きは無駄がなく、静かだった。
直後、雷を纏った巨獣が地面を砕き、追撃する。
ラージャン?
だが、私の知るそれとは明らかに違っていた。
片眼がない。
いや、それ以上に…大きすぎる。
失われた眼窩から、白蒼い光が漏れている。
怒りではない。
興奮でもない。
まるで何かを“観察”しているような光だった。
ハンター――後に深雪と知るその人物は、距離を取り、射線を維持していた。
銃声は控えめで、だが正確だ。
雷を纏う腕、脚、動きの起点を狙い、確実に“止め”を作っている。
それでも、巨獣は止まらない。
私は理解した。
これは討伐ではない。
時間を稼ぎ、誘導し、何かを待っている戦いだ。
その“何か”が何であるかを、私はまだ知らなかった。
次の瞬間、巨獣の動きが変わった。
空気が震え、金属製の装備が微かに鳴いた。私の背負う記録用具ですら、嫌な共鳴を返す。
嫌な予感が、全身を貫いた。
ハンターは、終始巨獣だけを見ていた。
岩陰に隠れている私の存在に気づいた様子はない。
ハンターの注意は、雷を纏う巨獣の動き、その次の一手にのみ注がれていた。
それが正しい判断であることは、非戦闘員の私にも理解できた。
私は、この戦いの“外”にいるつもりでいた。
少なくとも、その瞬間までは。
雪嶺は、静かに息を潜めていた。
嵐が来る、その直前のように。

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